セルサイドデシジョンの仕組み 

Paul Zovighian, マーケットプレイス バイスプレジデント
長年にわたり、プログラマティック広告におけるデータ活用や意思決定は、主にバイサイドで行われてきました。しかし、この構造が、変わりつつあります。現在、「セルサイドデシジョン」と呼ばれる大きな構造的な変化が起きています。この新しいアプローチは、インプレッションにより近いタイミングでイノベーションを後押ししています。広告価値の創出方法とそのタイミングを再定義しています。Index Exchangeのマーケットプレイス担当バイスプレジデント、ポール・ゾビガン( Paul Zovighian )が、セルサイドデシジョンとは何か、どのような仕組みなのか、そしてこの変化がプログラマティック広告の価値をどのように、どのタイミングで創出するのか再定義している理由を詳しくお話します。

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セルサイドデシジョンとは 

セルサイドデシジョンは、プログラマティック取引の早期段階でスマートな決断を可能にします。バイサイドで一般的に使われているのと同様のロジック、ターゲティング条件、最適化をセルサイドに適用することができます。 

ここで重要なのは、バイヤーは引き続きDSPを介して取引を行うという点です。 セルサイドデシジョンはDSPを置き換えるものではなく、より詳細なシグナル、スケール、精度を提供することで、DSPの意思決定を向上します。 

このイノベーションは、広告エコシステム全体の関係者にメリットをもたらします。 

  • マーケターは、高精度で無駄のない、より高い成果を出す 
  • パブリッシャーは、収益を拡大し、自社のインベントリに対してより精密なコントロールを実現 
  • ソリューションプロバイダーは、迅速な規模拡大とイノベーションの実現で、お客様により高い価値を提供 

どのようにセルサイドデシジョンが生まれたのか 

セルサイドデシジョンがなぜ重要なのか、そしてどのような仕組みなのかを理解するには、現況に至る経緯を把握することが重要です。 

これまで、パブリッシャーがSSPにスロットリクエストを送信していました。そのSSPは、フロアプライスやバイヤーの除外条件などの基本的なビジネス上のロジックを適用し、その後、そのリクエストをDSPに送信していました。しかし、すべてのリクエストがDSPまで到達する訳ではありません。 効率性とコンピューティングリソース(コンピューターが計算処理を行うために利用するCPUやメモリなどの資源のこと)を考慮し、DSPは1秒あたりのリクエスト数(QPS)の上限を設定するか、1秒あたりに処理するリクエスト数を制限しています。つまり、一部のリクエストは、入札するかを判断する前にフィルタリングされ、DSPにまで到達しないのです。 

DSPがフィルタリングされた後のリクエストを受け取ると、ターゲティングするオーディエンス、配信する広告クリエイティブ、配信ペースと予算を決定し、その後、応札する場合があります。 

現在の課題は、SSPがこれまで、バイヤーのニーズ(特定のトラフィックタイプ、オーディエンス、キャンペーンの目的など)を直接把握できなかったことです。そのため、過去の傾向や推定シグナルを基に、どのインベントリを送信するかを判断するしかありませんでした。 

インプレッションにより近いセルサイドデシジョン

セルサイドデシジョンは、インプレッションに近いタイミングでロジックを適用することで、これまでの課題を解決できるようになりました。数千社のパブリッシャーとの接続を通じて、SSPはオープンインターネットの全体像と、ページコンテキストやファーストパーティのオーディエンスデータなど、インプレッションレベルのシグナルを取得できます。 

これらの情報に基づいて、データ、クリエイティブテクノロジー、バイヤーのパフォーマンス指標で学習されたアルゴリズムなどのインテリジェンスをスケール可能な方法で適用できます。これにより、取引の早期段階から、スマートなロジックを取り入れ、インベントリの価値を高めます。 

その結果、DSPはより関連性が高く、高品質なインベントリを受け取ることができ、マッチング率、キャンペーンのパフォーマンス、透明性が向上します。これはDSPの最適化を強化し、ブランドと代理店は、SSPのリーチと柔軟性を全く新しい方法で活用できるようになります。 

また、これは、利用可能なすべてのデータをより有効活用できることを意味します。取引の各ホップは、レイテンシーや、最悪の場合シグナルロスを引き起こします。セルサイドデシジョンは、加工されていないシグナル、つまりシグナル送信元のすぐ近くで判断を可能にし、バイヤーがより高い成果を得られるようサポートします。 

それと同時に、パブリッシャーは、バイヤーが何を重視しているのか、どのコンテンツが効果的なのか、そしてインベントリをバイヤーの目標やニーズとどう一致させるのか、より多くの情報を得られるようになります。パブリッシャーは初めて、自社のインベントリの状況だけでなく、自社のオーディエンスの評価・価値を把握し、判断できるようになります。これは根本的な変化です。 

また、セルサイドデシジョンは、新しい収益化の手段を生み出します。パブリッシャーが保有する豊富なファーストパーティデータは、これまでプライバシー規制により活用が困難でしたが、現在では、単独のアセットとしてパッケージ化し、商品として提供することが可能になりました。 

つまり、パブリッシャーは、もはやインプレッションだけを収益化するのではなく、インテリジェンスそのものを収益化しているのです。 

これは、新たな収益源を常に模索している業界にとって、非常に大きなメリットです。 

今セルサイドデシジョンが具体化しつつある理由 

なぜ、これまでセルサイドデシジョンが定着せず、今になって具体化しているのでしょうか。これには、主に3つの理由があります。 

1.インフラ要件:セルサイドデシジョンを実現する状態に到達するまでには、多大な時間とインフラへの投資が必要です。データ企業やアルゴリズムソリューションのようなソリューションプロバイダーにとって、自社の技術をメディアの提供に直接適用するには、何千ものパブリッシャーと個別に接続を構築し、技術インフラに大きな投資を行う必要があります。これは非常に大きな負担となり、費用も掛かり、複雑な作業です。その一方、SSPはすでにそのサプライ基盤を持っています。そのため、SSPのインフラを活用することで、ソリューションプロバイダーは、一からビジネスを構築し直す必要なく、簡単に規模を拡大できます。 同様に、SSPサイドでインテリジェンスを適用することで、ソリューションプロバイダーは、全ての各DSPに同じ戦略を展開する必要がなくなります。これにより、バイヤーは様々なソリューションを簡単に利用できるようになり、各DSPのプロダクトロードマップに依存せず、DSPが提供する機能を利用し続けられます。 

2.コンピューティングパワー:技術とコンピューティングパワー(処理能力)は、近年、飛躍的に進化しています。セルサイドデシジョンを実現するには、非常に限られた時間制限の中で処理する必要があります。その時間制限は、10ミリ秒以下 で、ほんの一瞬で判断しなければなりません。少し前までは、その短い時間内に、適切な判断をするための十分な効率性や計算能力が存在しませんでした。しかし今では、処理能力の効率性と規模が大きく改善したことで、オークション全体の流れを妨げることなく、わずかな時間内にインテリジェンスを適用できるようになりました。 

3.イノベーションの必要性の高まり:業界で、イノベーションを求める声が高まっています。プログラマティック広告の基本的な仕組みの大半は、この10年間ほとんど変化していません。セルサイドデシジョンは、長い間先送りされてきた、サプライチェーン全体で価値を創出する方法を再考するきっかけとなります。

セルサイドデシジョンの活用事例 

セルサイドデシジョンは、よりリッチで柔軟性の高いイノベーションの基盤を築いています。そして、すでに多様な活用事例が創り出されています。 

キュレーション 
そのうちの一つが、セルサイドのキュレーションです。バイヤーがSSP上で、独自の戦略を直接展開できる仕組みです。 

従来の固定されたパッケージに依存するのではなく、リアルタイムのサプライシグナルに基づき、動的にオーディエンスをキュレーションできます。 一方、パブリッシャーは、マーケターの目標に合わせてインベントリを動的にパッケージ化できるようになり、スケールと精度のバランスが取れた、よりスマートなエコシステムが実現されます。 

エージェンティックAI 

現在、セルサイドで、エージェンティックAIモデルを学習させることが可能になりました。学習の際には、勝率、収益、広告クリエイティブの効果、ブランドセーフティなどのパフォーマンス指標が利用されます。これにより、オークションのダイナミクスを形成し、インプレッションレベルで、その瞬間のパフォーマンスと長期的な品質の両方を重視した判断が可能になります。 

ストリーミングTV 

ストリーミングTVでは、セルサイドデシジョンが、インベントリが断片化する課題に対処する手段となっています。SSPは、リアルタイムで、オーディエンスのインサイトやバイヤーの優先事項をサプライに適用することができ、プライバシーを保護しながら、番組レベルの詳細なデータなど、価値の高いシグナルを活用できます。これにより、視聴者体験と収益機会を重視した、より精度の高いオークションが実現されます。さらに、オークションの早期段階でロジックが適用されるため、バイヤーはキャンペーンのペーシングやフリークエンシー、デバイスとチャネル間の連携をより的確にコントロールできるようになります。これは、オーディエンスデータが分散する環境において特に重要です。

コマースメディア 
セルサイドデシジョンは、コマースメディアにおいても新たな可能性を生み出しています。コマースメディア・ネットワークは、商品レベルのデータ、動的なプロモーション、購買意欲のシグナルなどをSSPに共有することで、実際のパフォーマンスに基づいたキュレーションを可能にします。 

さらに、これによりコマースメディア・ネットワークは、自社のエコシステム以外でもビジネスを拡大できます。コマースメディアは、自社の顧客データを活用し、信頼できるメディアパートナーを通じてオーディエンスにリーチすると同時に、広告の配置や配信方法のコントロールと透明性を維持することができます。 

プログラマティック広告の新時代 

セルサイドデシジョンは、バイサイドとセルサイドの間に、よりスマートで効率的、そしてスムーズな取引を可能にするパスを構築します。これは、プログラマティック広告の仕組みにおける根本的な変化であり、この変化は、まだ始まりに過ぎません。この進化が続くにつれ、新しい連携やイノベーションの新しいモデルが生まれ、エコシステム全体に新たな価値が創出されるていくでしょう。 

Index マーケットプレイスで、セルサイドデシジョンを活用し、より高い結果を出す方法をご確認ください。